2026年5月28日

事例インタビュー

「前提条件を変数にしない」──KPI・稟議を超える、AI時代の採用ブランディングと覚悟とは? | イオンCTO 山﨑賢氏 × トラックレコード 野崎が語る(後編) 

対談者プロフィール

山﨑 賢 氏  Ken Yamazaki
イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO
新卒で大手SIerに入社。その後、Yahoo! JAPANへ転職し数々の新規サービスの立ち上げに携わる。リクルートに入社。大規模サービスの開発責任者を兼任。ゼネラルマネージャーとして組織マネジメントを実施。
その後、複数のベンチャー企業CTOを経て2023年より現職。イオングループ全体を統括するイオン株式会社のCTOとして従事。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)理事。

野崎 耕司  Koji Nozaki
株式会社トラックレコード 代表取締役
2006年戦略系PRエージェンシーのビルコムに入社し、新規事業担当執行役員、取締役を経て、2015年ディー・エヌ・エー入社。MERYの雑誌立ち上げ、コンテンツ事業部長、ブランディング室長に従事。その後、本社での副業制度設計や人事プロジェクト「フルスイング」の立ち上げを経て、2018年トラックレコード創業。
本プロジェクトでは、立ち上げから採用戦略、採用ブランディングを手掛ける。

荒木 翔子  Shoko Araki
株式会社トラックレコード
モバイルサービス大手企業にてToC向けサービスの企画ディレクターを経験後、Webメディア編集やBtoBマーケティング、スタートアップの採用・広報担当などを経てトラックレコードへ入社。
イオン採用ブランディングプロジェクトでは、イベント企画、カンファレンス等の大型イベントPMO、記事・動画などのコンテンツ制作ディレクションを担当。


はじめに

前編では、イオン株式会社とトラックレコードが2年以上にわたって積み上げてきたDevRel活動の軌跡と、「コミュニティ」として向き合うパートナーシップの在り方を振り返りました。後編では、採用ブランディングに取り組む上で多くの組織が直面する「KPIをどう設定するか」「費用対効果をどう示すか」「社内の承認をどう取り付けるか」といった避けられない課題への向き合い方について、山﨑CTOが語ります。さらに、AI時代における発信の意義の変化と、2年先を見据えたこれからの展望についてもお話いただきました。

前編はこちら:イオン×トラックレコード、採用ブランディング2年の軌跡

【目次】

ブランディング投資とKPI──「失敗しても死なない」という思想

採用ブランディング支援の現場では「KPIはどう置いているのか」「採用数に何人反映されてくるのか」といった問いをよくいただきます。山﨑さんは、SRE Kaigi 2026へのスポンサードのように、短期の採用人数には直結しにくい投資も躊躇なく決断されています。その判断の基準を教えていただけますでしょうか。

山﨑CTO:
正直に言うと、やってみなきゃわからないから、というのが半分。あとは、費用対効果を数字で求めるのは、そもそも無理だと思っているんですよ。例えば200万円投資して、優秀なエンジニアが3人採用できて、エージェント費用と比べて得でしたね、みたいな無理くりのアルゴリズムはつくれますけど、それって本質じゃない。

たとえばテレビに出て、その局でCMをやっている製品ごとに、放送枠の一個一個にKPIなんて絶対追っていないじゃないですか。単に製品に対して「ブランド料」っていう下駄があって、それをどう使うかをマーケターが考えているだけ、という話だと思うんですよ。でも、それを継続的にやっていかないと、認知は立ち上がっていかない。だから、一回分の投資を点で評価するのとは違う見方が要るよね、という話です。

山﨑CTO:
もし本当に正確にKPIを置くとしたら、人材紹介エージェントへの紹介手数料とダイレクト応募の差分で測る設定が一番わかりやすいかもしれない。でも、それを追うのは正しくないと思っていて。

3年間こういう活動を続けてきて、エージェント経由でも「発信内容を見ていたからこそイオンに決めた」という人はいるし、もっと言えば、こういう発信活動をしているから辞めなかった中の人もいるかもしれない。それって数字では絶対に測れないじゃないですか。

人事はいろんな福利厚生や施策を考えますが、その一つひとつにKPIを持っているかって話と一緒だと思うんですよ。採用ブランディングも、人が転職を考える中の「ポジティブな要素の一つ」を注入している、それ以上でも以下でもない。

野崎:
山﨑さんの判断って、結構ユニークだなって僕は思うんですよね。勇気がいるとも言えるというか。それって元々ですか?それとも経験を経て身についたものなんですか?

山﨑CTO:
元々ですね。意識していることがあるとすれば、「前提条件を変数として組み込まない」こと。「イオンだからできない」「このメンバーだから失敗するだろう」みたいな変数を、一切計算に入れない。登りたい山があるなら、100段の階段のうち1段目を踏み外しても別の道を行けばいいだけなんです。重要なのは、歩き続けていることのほう。

野崎:
その大局観を周囲に説明するのが大変なシーンもありそうですが。

山﨑CTO:
それは幸い、イオンにおいてエンジニアは「専門職」なので、「専門性というカプセル」で守られている部分があって。そこは他の職種と比べて動きやすい面は確かにあると思います。

社内での合意形成や稟議で足が止まってしまう、というのは多くの組織で起こりうる話だと思います。そうした方々に対して、山﨑さんであればどのような言葉をかけますか。

山﨑CTO:
まず動いてみたらいいんじゃないですか」と言いたいですね(笑)。承認という行為は社内プロセスであって、目的に対する手段としてはそこまで重要じゃないことが多い。全員の顔色を伺って合意を取ろうとすると、絶対にイノベーションは起きない。成果を出して見せたほうが早いんですよ。

野崎:
現場のエンジニアにも、同じスタンスを求めていらっしゃいますよね。

山﨑CTO:
そうですね。大事なのは、エンジニアが自由に発信できる環境をつくること。お金も含めて、そこをCTOが承認してあげる。そして自分自身が「ファーストペンギン」として踊り始める。CTOが積極的に発信していたら、「それなら俺たちも出していいよね」となる。

うちでも、現場のエンジニアが何の承認も得ずに、勉強会や登壇、発信にどんどん出ていきます。会社のルール的には本来稟議が必要なのかもしれないけど、「それをやらなくていい」という自由度の中で、みんなが自発的に動いている。炎上するかもしれない?でも、死ぬわけじゃない。もし何かあったら、誠実に向き合って対応すればいい。

野崎:
これは僕にも経験があって。社内の合意を全部取り切ってから動こうとすると、どうしても進まない場面がある。「失敗しても死なない、まずは動いてみたらいい」というのは、本当にその通りだと思います。

AI時代の発信:きらびやかな成功事例より「生々しい実態」

これから、企業からの発信の意味合いはどのように変わっていくとお考えでしょうか。

山﨑CTO:
近い将来、求職者がAI経由で「自分に合う会社」を自動的に探す時代が来ますよね。そのとき、AIが情報を取りに行く先は、世の中に発信されている最新の情報。つまり、発信していない会社と発信している会社の間には、採用において致命的な距離ができる。だから物量と最新性が大事で、「継続的に発信し、常に面白いことをやっていそうに見える会社」であり続けることが、これからの勝ち筋だと思っています。

野崎:
同感です。表面的に出ている情報は、AIで簡単に要約できてしまう。だからこそ、「生の声」や「雰囲気」をそのまま届けることのほうが、結果として差別化になっていくと思っています。

山﨑CTO:
成功事例は、どこにでも溢れていますよね。営業パンフレットでもリーフレットでも。僕は割と斜に構えているタイプなので、「いいように書くよね」と思ってしまう(笑)。それより、「検証したけどうまくいきませんでした」「泥臭くコスト削減やりました」みたいな、作っている過程の生々しい話のほうが、エンジニアが普段どういう姿で働いているか、どれくらい自由が効くのかが伝わる。先輩の声みたいな「いいことしか言わない記事」は、翌月にその人が辞めていることも少なくありません。脚色されたきらびやかなものは装飾品として端に置いておけばいい。集めるべきは「生々しい実態」だと思っています。

荒木:
実際に最近一番反響が大きかった記事も、コスト削減の泥臭い話でしたね。ネガティブというわけではないけれど、少し泥臭めのもののほうが、結果的によく読まれているなという感覚があります。

これから──2年の先に見えていること

最後に、これから先、どのような方向にプロジェクトを進めていきたいかをそれぞれ聞かせてください。

山﨑CTO:
まずシンプルに、ここまで積み上げてきた発信は止めた途端に忘却されていくものだと思っています。だから何より、継続的に発信し続けること。常に面白いことをやっていそうに見える会社であり続けるために、記事として出し続けるところは絶対に緩めたくないですね。

もう少し先の絵として、開発に特化した専門組織をイオングループに作っていくことも視野に入れています。今後さらにプロダクト開発に集中できる体制を整えていく中で、トラックレコードさんと人事制度やカルチャーの設計から一緒に取り組んでいけたら、それはめちゃくちゃ楽しそうだと思っています。

野崎:
僕もまさに同じ感覚で、「実態こそすべて」だと思っています。

イオンには、大企業ならではのスケールと、それに見合ったダイナミックな技術的チャレンジが確実にある。その実態をそのまま届けられれば無双だ、と。そして山﨑さんが描かれているような次のフェーズに、カルチャーの設計から一緒に入らせていただけるなら、それはとても楽しみです。

荒木:
運用が安定してきたフェーズだからこそ、ここからが本番だと思っています。
現場にはまだ外に出しきれていない挑戦がたくさんある。それを丁寧に掘り起こして届けていきたいです。


本記事の制作を担当した中川と申します。トラックレコードの制作ディレクターとして、このプロジェクトには約1年前から参加しています。

採用ブランディングやDevRelに取り組もうとするとき、多くの現場で最初に直面するのが「費用対効果が見えない」「KPIが立てにくい」「社内で予算が取れない」という壁です。今回の対談を編集しながら、山﨑CTOがその問いに「費用対効果を数字で求めるのは無理」と言い切り、それでも投資し続けた覚悟に、改めて感銘を受けました。

「会社と会社」の付き合いをしていたら、ネタは出てこない。記事の素材は、一緒に作っていく過程でしか生まれないと思っています。KPIが曖昧な分、不誠実なパートナーなら「やった感」を出すことだってできる。でも本気で向き合っているからこそ、コミュニティになる。それはビジネスの関係では、なかなか生まれないことです。

途中から加わった私が言えることは一つ。ここまで積み上げてきた関係と信頼を、結果で返していくことです。

トラックレコードには、野崎や荒木のように深く関わることを厭わないメンバーが揃っています。「まずは話を聞いてほしい」という段階からでも、ぜひ気軽にご連絡ください。

(中川香里/トラックレコード 制作ディレクター)


前編では、「イオンはもったいない場所にいる」という出発点から、2年強でエンジニアに選ばれる組織になるまでの歩みを山﨑CTOに振り返っていただきました。

「もったいない場所にいる」からエンジニアに選ばれる組織へ | イオンCTO 山﨑賢氏 × トラックレコード 野崎が振り返る採用ブランディング2年間の軌跡(前編)

この記事をシェアする
エンジニア採用に関するお悩みやお困りごとを、まずはお気軽にご相談ください

デジタル人材採用の総合支援サービス

TECH HIRE

サービスについて

採用支援

採用業務支援

採用ブランディング

リクルーティング

エージェント・リレーション

新卒採用

採用体制立ち上げ・構築支援

エンジニア採用研修

イベント支援

採用サイト制作

採用ピッチ資料制作

タレントプールサイト制作

組織開発

人事戦略

人事戦略コンサルティング

組織開発コンサルティング

人事制度設計コンサルティング

人的資本経営コンサルティング

組織の自律力強化

自律力強化コンサルティング

組織の自律力診断

組織文化・コミュニケーション

組織文化変革コンサルティング

インナーブランディングコンサルティング

社内報運用支援

Colla / 社員の声でチームを強くする

経営理念・バリュー浸透

経営理念・バリュー浸透コンサルティング

Colla / 社員の声でチームを強くする