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山﨑 賢 氏 Ken Yamazaki
イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO
新卒で大手SIerに入社。その後、Yahoo! JAPANへ転職し数々の新規サービスの立ち上げに携わる。リクルートに入社。大規模サービスの開発責任者を兼任。ゼネラルマネージャーとして組織マネジメントを実施。
その後、複数のベンチャー企業CTOを経て2023年より現職。イオングループ全体を統括するイオン株式会社のCTOとして従事。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)理事。
野崎 耕司 Koji Nozaki
株式会社トラックレコード 代表取締役
2006年戦略系PRエージェンシーのビルコムに入社し、新規事業担当執行役員、取締役を経て、2015年ディー・エヌ・エー入社。MERYの雑誌立ち上げ、コンテンツ事業部長、ブランディング室長に従事。その後、本社での副業制度設計や人事プロジェクト「フルスイング」の立ち上げを経て、2018年トラックレコード創業。
本プロジェクトでは、立ち上げから採用戦略、採用ブランディングを手掛ける。
荒木 翔子 Shoko Araki
株式会社トラックレコード
モバイルサービス大手企業にてToC向けサービスの企画ディレクターを経験後、Webメディア編集やBtoBマーケティング、スタートアップの採用・広報担当などを経てトラックレコードへ入社。
イオン採用ブランディングプロジェクトでは、イベント企画、カンファレンス等の大型イベントPMO、記事・動画などのコンテンツ制作ディレクションを担当。
イオン株式会社と株式会社トラックレコードは、2023年6月からエンジニア向け採用ブランディングを共に手がけてきました。CTO・山﨑賢氏の号令のもとスタートした取り組みです。3年目に入ったいま、山﨑CTOと、立ち上げから伴走してきたトラックレコード代表の野崎、プロジェクトの実行を担ってきた荒木の3人が、「同じ景色を見てきた戦友」として、2年強の歩みを率直に振り返りました。
【目次】
プロジェクト開始の2023年6月から、2年強の歩みをあらためて振り返らせてください。
荒木:
プロジェクトスタートから、もう丸3年弱ですね。最初はエンジニア向け採用サイトとピッチ資料(エンジニア向け会社紹介資料)をつくるところから始めて、その後にプロダクト人材向けの採用サイトも立ち上げ、オウンドメディア”AEON TECH HUB”を運営するようになり、という流れで徐々に広がってきました。

社会を変革するイオンの“挑戦”と“人と働き方”を伝えるオウンドメディア
Connpassのコミュニティも育ってきていて、イベントは通算31回、累計参加者は2,500名超。回によっては100〜200名規模で集まる会もあります。Xも立ち上げから定期的に運用しており、Speaker Deckでは、昨年7月のSRE NEXTの登壇資料が12,000リーチを記録しました。エンジニア向け会社紹介資料も66,000リーチを超えていたりと、蓄積してきたコンテンツが着々と候補者に届いているフェーズに入ってきています。
山﨑CTO:
改めて見ると、それはすごいよね、と素直に思います。始めた頃は「本当に意味あるのかな」と見ている人も多かったけど、これだけ積み上がると、何かが回り出している実感があります。

野崎:
最初にお話を伺ったときから、「イオンはもったいない場所にいる」という話を山﨑さんはされていて、聞けば聞くほど本当にそうだなと思っていました。採用ピッチ資料をつくっていく際に、「こんなことを実際にやってるんですよ」という話がどんどん出てきて、これは外に出したら絶対に反響が出るだろうな、と思いながら進めていたのを覚えています。
こうやって数字や成果物を並べると、かなり進んだようにも見えます。その上で、山﨑CTOご自身は、いまの「現在地」をどのように捉えていらっしゃいますか。
山﨑CTO:
ブランディングはまだ道半ばです。というか、ゴールなんてないんですよ。止めた途端に忘却されていくものなので。あえて言うなら、まだ二合目ぐらい、という感覚ですね。
採用の現場でも、面談で「記事を見ました」「イベントに参加しました」と言う候補者が増えてきているといいます。
荒木:
山﨑さんの言葉をうけると「二合目」ですが、やり始めた価値は、間違いなく出てきていると感じます。
山﨑CTO:
イオンって知らない人いないじゃないですか。ほとんどの日本人が一度は買い物したことがある。つまり「集客力」はすでにある。あとは「そこにエンジニアがいる」ということが認知されていなかっただけなので、ここまで行ってくれないと困るよね、というのは最初から思っていました。
立ち上げ期から手応えが出るまでに、「ここで流れが変わったな」と感じた瞬間はありましたでしょうか。
山﨑CTO:
自分の中で「潮目が変わった」と感じたのは、2023年のアドベントカレンダー(※)最終日に書いた記事「巨大企業でDX革新を起こすということ」です。「JTC(Japanese Traditional Company)」や「レガシー」といったエンジニア界隈ではネガティブに使われがちな言葉を、「JTC▶︎成功企業」「レガシー企業▶︎大量の資産ホルダー企業」と、ポジティブに変換して捉え直してみる、という内容を書きました。
私はいつも宿題をギリギリにやるタイプですけど(笑)、アドベントカレンダーってエントリーした時点で義務なんですよね。24日までみんな書いてくれているのに、25日で穴を開けるわけにはいかない。前日に書き上げたんですけど、その記事を、僕が目標にしていたり憧れていたエンジニアの方々が軒並みリツイートしてくれて、「イオンやべえ」みたいな反応が続々と出て。そこから空気が変わった感覚があります。

※アドベントカレンダー: クリスマスまでの期間をカウントダウンする風習にちなみ、12月1日から25日まで特定のテーマで毎日1人ずつ記事を投稿するリレー形式のイベント。特にエンジニア界隈では12月の恒例行事として非常に活発で、最終日(25日)は「大トリ」として注目度の高い記事が投稿される傾向にあります。
荒木:
アドベントカレンダー自体は、社内メンバーの自発的な呼びかけで立ち上がり、同じタイミングで採用サイトもオープン。そこに山﨑さんの最終日のエントリーが公開。複数の施策が掛け合わさって一気に火がついた印象があります。あの記事を入口にしたイベント登壇依頼も、いまだに続いていますよね。
しかもアドベントカレンダーは、イオンのエンジニアさんたちが毎年自主的に立ち上げてくれていて、3年連続で完走しています。大トリを毎年山﨑さんが書いてくださっていて、2024年は「巨大企業でのDXの本質は『剥がす』ということ」、2025年は「CTOとして、継承の重要性と退く覚悟の話」でした。毎年、その時点で山﨑さんが向き合っているテーマをきちんと言葉にしていて、「継続している人が書くもの」としての重みが、年を追うごとに増している気がします。
野崎:
社内の反応や評価についても、何か変わったなと感じた瞬間ってありましたか?
山﨑CTO:
社内で「見てますよ」みたいに声をかけてもらうことが増えました。エレベーターの中で小声で「記事読みました」と言われたりとか。派手さはないんですけど、そういう声が少しずつ積み重なってきていて、「外のメディアでの露出が社内の空気にも染み込んできている」という感覚がありました。
候補者の顔ぶれにも変化はありましたか。
山﨑CTO:
明確にありますね。面接で聞くわけじゃないんですけど、「山﨑さんの記事を見ています」、「イオンの記事は一通り見て、今日の面談に来ました」という方が、半分以上じゃないかなというくらいまで増えている感覚があります。
候補者の年齢層も明らかに若返りました。メディアに接している20代・30代のエンジニアが、転職先として検討してくれるようになってきたな、と感じます。
面談前にコンテンツを読む候補者が増えたことで、「イオンで何をやっているか」を一から説明するフェーズが省略され、カジュアル面談ではチームの状況やプロダクトの課題といった具体的なテーマから話を始められるケースが増えています。
採用数という直接的な成果だけでなく、DevRel活動を続けてきたことで生まれた副次的な影響があれば、お聞かせください。
山﨑CTO:
一つ大きいのは、外部で認知されているという状態そのものが、自分の「発言力」に重みが出る、という点ですね。
技術コミュニティの中で「発言力がある人」として見られるようになると、その人が話す技術的な判断に、ある程度「言霊」みたいなものが乗る。「この人が言うんだったら、たぶんそうだろうな」と受け取ってもらえるんですよ。
荒木:
重要度や「影響力がある人」というイメージが、自然とつきやすくなるんですね。
山﨑CTO:
そうなんです。結果として、「それ本当なんですか」「実証してください」みたいな空中戦のプロセスがほぼなくなった。技術的なアドバイスや方針に対して反論を食らうことも、ほぼゼロになりました。これは当初あまり意識していなかった、嬉しい副次効果ですね。
山﨑さんから野崎にコンタクトをいただいたあと、どんな形でスタートを切ったのでしょうか。
山﨑CTO:
入社してすぐに、これだけの規模でエンジニアリングに取り組んでいるのに、外向けの発信が何もない。「DevRelをちゃんとやらないと、これ白紙じゃん」と感じて。入社1〜2週間くらいのタイミングで、野崎さんに連絡しています。ただ、最初からフルパッケージでお願いした、という感じではなくて。緩やかに設計していったんですよね。野崎さんも最初からかなり入ってくれていて、「こういうことをやっていったらいいんじゃないか」と話し合いながら、一緒に組み立てていった、というベースがあります。
野崎:
本当に、最初は戦略のところからずっとご一緒していて。二転三転もしつつ、最終的にこの方向にしよう、とまとまっていった感じでしたよね。
山﨑CTO:
あの二転三転には、方向性の模索だけじゃなく、立ち上げ期ならではの難しさもあって。DevRelに近い取り組みが入社前にも社内で何度かチャレンジされていたものの、うまく軌道に乗りきれていなかった経緯があったんですよね。
「登壇のハードルが高い」「予算の優先順位が難しい」といった声もある中で、野崎さんと関係各所との調整をしながら設計を詰めていきました。あの頃のやり取りが今でもNotionのログに残っているらしくて(笑)。
だからこそ「良いアウトプットを出して、成果で語ろう」という気持ちが野崎さんと最初から揃っていた。あの瞬間に違うチームが入っていたら、おそらく今の状態にはなっていなかったと思います。
野崎:
「なんとしてでもアウトプットを出す」という気持ちは、僕も同じでした。いろんな関係各所との調整も含め、かいくぐっていかなきゃいけない瞬間も正直ありましたが、同じ方向を向いて一緒に粘ったあのフェーズがあったから、今の関係性があると思っています。

約3年近くご一緒してきて、トラックレコードと仕事をしてよかったと感じるポイントを、あえて3つ挙げていただくとしたら何でしょうか。
山﨑CTO:
3つにまとめるのはちょっと難しいんですけど(笑)、一つ目は「パッション」です。プロジェクトに対する思いの強さ。案件にも、企業にも、人に対してもですね。「自分ごととして関わってくれている」と感じられる方々なので、一緒に走っていて、こちらも自然と力が入ります。
二つ目は、「立場に関係なく本音で向き合ってくれる姿勢」です。外部のパートナーって、お客様に対しては「笑顔で無難に接する」のが通例かと思います。でも荒木さんも野崎さんも、取り繕わずに、率直に意見をぶつけてくれる。僕を「CTO」という役割としてではなく、「山﨑 賢」という一人の人間として見てくれているから、一緒に議論を深めることができるんですよね。結果的に、長く続く関係性になっていると感じます。
三つ目は、「人を惹きつける力」。今プロジェクトに関わっている方だけでなく、離れた方も含めて、「野崎さんや荒木さんと会うなら遠方からでも顔を出します」という方が自然と集まってくるんですよ。「会社と会社」の関係を超えた、コミュニティのような繋がりができている。これはプロジェクトというより、もう一つの「場」だな、と。
野崎:
ありがたいお言葉です。こうやって「会社と会社」ではなく、コミュニティとして続いていく仕事は、やっぱりいい仕事なんだな、と素直に感じます。

「始めたいけど、社内で予算が取れない」「KPIはどう設定すればいいのか」——そんな問いに、山﨑CTOは意外なほどシンプルに答えます。後編では、DevRelを動かす思想とAI時代の発信論、そしてこれからの展望をお届けします。
「前提条件を変数にしない」──KPI・稟議を超える、AI時代の採用ブランディングと覚悟とは?

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