2026年7月21日

イベントレポート

【イベントレポート】「ドンキが好きか?」から始まる人的資本経営〜PPIHの独自システム「タレクエ」と採用ブランディングの極意〜

2026年6月4日、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム主催のセミナー「PPIH登壇!『ドンキが好きか?』から始まる人的資本経営 〜 独自システム『タレクエ』と採用ブランディングの極意」が開催されました。

ドン・キホーテやアピタなどを展開し、36期連続増収営業増益を続けるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)。その圧倒的な現場力を支えるのが、独自の採用・育成・人事戦略です。

本セミナーでは、PPIHの経営戦略と人事システムをつなぐキーマンである渡邊 琢太氏にご登壇いただき、自社開発のタレントマネジメントシステム「タレクエ(タレントビューアー  クエスト版)」を詳説いただきました。続いて、弊社代表・芹川が採用ブランディングの観点からPPIHの事例を解説。後半は、HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事・香川氏を交えた3名によるパネルディスカッションを実施しました。

本レポートでは、渡邊氏のご講演、弊社の芹川によるセッション、そして3名によるパネルディスカッションの模様を、それぞれお届けします。

※文中に記載のある企業名・登壇者名については敬称略とさせていただいております。ご了承ください。

登壇者

渡邊 琢太氏 
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 人事労務本部 人事制度企画部 部長 兼 経営戦略本部 経営企画部 ゼネラルマネージャー 

IT業界でSE・プログラマ、転職サイト運営企業でサイト開発責任者・マーケティング責任者を経て、2013年にPPIHグループに入社。情報システム、WEB開発、デジタル戦略を経て、2021年から経営企画部の人事担当へ異動。2023年から人事関連部署を兼任し、現在は人事制度企画部部長として人事制度の構築・運用をしつつ、PPIHの人財戦略を横断的に推進している。

香川 憲昭氏 
HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事 

KDDI新規事業開発を経てドリームインキュベータに参画し、経営コンサルティング、ベンチャー投資に従事。2013年JINS執行役員として東証プライム上場。その後、Gunosy人事責任者、ペイロール取締役を歴任し、2020年より(一社)HRテクノロジーコンソーシアム代表理事(現任)。2024年より、株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー取締役就任(現任)。

芹川 太郎
株式会社トラックレコード 代表取締役 Co-CEO 

公認会計士。慶應義塾大学経済学部卒業後、新日本監査法人にて監査業務に従事。その後ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズの大学院でInnovation Managementの修士を取得。Bain & Company東京オフィスを経てDeNA入社。NTTドコモとの合弁会社である株式会社エブリスタ代表取締役社長を経て、現職。㈱Schoo監査役

Session 1|市販ツールでは不可能な「人的資本の可視化」──独自開発システム「タレクエ」の本質

▼スピーカー:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 人事労務本部 人事制度企画部部長 兼 経営戦略本部 経営企画部 ゼネラルマネージャー 渡邊 琢太 氏

すべての根底にある企業理念「源流」

PPIHグループは、ドン・キホーテ、長崎屋、アピタ・ピアゴ、さらには海外事業を展開し、長期経営計画では「10年後に売上4.2兆円、営業利益3,300億円」を目指しています。

その成長の根底にあるのが、社内で「源流」と呼ばれる企業理念集の存在です。最も大事にしているもので、中核にあるのは顧客最優先主義。約9万人の全従業員が同じ言葉を使い、共通の考え方で仕事に取り組むことを徹底しています。

「源流」の中核を成すのが、顧客最優先主義から生まれる『権限委譲』と『変化対応』で『個店主義』を貫くという考え方です。PPIHにおける「権限委譲」は、単に仕事を任せることではありません。仕事を単に「ワーク」ではなく「ゲーム」に変える要素として、①明確な勝敗、②タイムリミット、③最小限のルール、④大幅な自由裁量権 という4つの要素があります。その結果を評価し、昇格にも降格にも反映させています。このゲーム性を持たせた「権限委譲」が、PPIHのカルチャーを形づくっています。

その象徴がドン・キホーテです。「権限委譲」を徹底しているため、近隣の店舗同士でも売価や商品の並びは大きく異なります。商品・陳列・値段・ポップ・レイアウトのすべてを店舗に委ねているからこそ生まれる違いです。災害や有事の際にも、本部の指示を待たず店舗の判断で動く。だからこそ、復旧が最も早いのはドン・キホーテになると考えています。

なぜ「タレクエ」を自社開発したのか

こうしたカルチャーを背景に生まれたのが、自社開発のタレントマネジメントシステム「タレクエ(タレントビューアー  クエスト版)」です。開発に踏み切った背景には、4つの課題がありました。

1つ目は、250万件以上にのぼる社内異動歴を活用できていなかったこと。膨大なデータが蓄積されないまま、従業員の記憶頼みになっていました。2つ目は「キャリアパスが見えない」という従業員からの声。3つ目は、そもそも従業員がシステムを見ない(半期に1回程度しか開かない、更新しない)という、多くの企業に共通する課題。そして4つ目が、若手抜擢のための情報不足でした。

役員の異動歴を調べても一人ひとり経歴がバラバラで、ある意味で冒険のようなもの。そんなとき、電車内で多くの人がゲームに熱中する光景を目にして、「ゲームであれば、みんな触ってくれるのでは」と考えました。某有名RPGを模してゲーム化したのが、この『タレクエ』です。

ゲーム化が生んだ4つの仕掛け

タレクエには、従業員が「思わず触りたくなる」ための工夫が随所に盛り込まれています。

第一に、点在していた人事データを集約し、類型化しました。ただ、データは集めるだけでは使ってもらえません。そこで、先ほどのゲームの発想を活かし、親しみやすい見た目にすることにこだわりました。

その象徴がキャラクターです。1万人以上いる正社員それぞれに用意するとなると被ってしまいますし、数も膨大になります。そこでAIでキャラクターを生成し、絶対に被らない状態にしました。さらに、職位(社内での役職や等級)が上がるほど、キャラクターやフレームが豪華になっていく仕組みにしています。

第二に、250万件の異動歴をすべて計算・可視化。左側にキャリアマップ、右側に「1つ前」と「1つ後」のキャリアパスを表示することで、従業員が自分の「先」を見通すことができるようにしました。

第三に、尊敬する先輩のキャリアを可視化。「先輩がどんな経験をしてきたか見たい」という声に応え、類型化したデータをもとに先輩の歩みを示せるようにしています。

さらに、「同期が今どのポジションにいるのか」の比較を表示する独自の機能も搭載。自分が同期の中でどのポジションにいるかが分かることで、競争心を喚起しています。

第四に、人事データだけでは拾いきれない情報を補うため、各地域の支社長や店長が「この人はいい」と感じた「光る原石」をアナログで入力できるようにしています。デジタルだけに頼らず、アナログの現場情報を掛け合わせることで、抜擢の精度を高めています。

数字が物語る効果、そして「一番大事なこと」

タレクエ導入の効果は、数字にも明確に表れています。システムへのアクセス数は15倍以上に増加。リリース後のアンケートでは、「キャリアへの関心が高まった」と回答した若手が83%にのぼりました。NewsPicksをはじめとする外部メディアにも取り上げられ、社内外で大きな反響を呼んでいます。

ただし、私が一番大事だと考えているのは、システムそのものではありません。直近の2週間でも、21エリアを臨店してきました。「光る原石の従業員を登録してほしい」と掲示板で呼びかけるだけでは、現場はなかなか動いてくれません。だからこそ自分で店舗を回り、自らの声で直接伝えることを重視しており、半年に1回は全国を回っています。タレクエという仕組みも、現場を動かす地道な働きかけがあって初めて生きてくると思っています。

Session 2|PPIH流「理念採用」と採用ブランディングの衝撃

▼スピーカー:株式会社トラックレコード 代表取締役 Co-CEO 芹川 太郎

ブランドとは「想起の強さ」である

続いて、弊社代表・芹川が採用ブランディングの観点から、PPIHの「源流」がいかに採用の現場で生きているかを解説しました。

本題に入る前に、そもそも採用ブランディングとは何かを整理させてください。ブランドというと、ロゴやPR、広告、認知度を思い浮かべる方が多いと思います。しかし本来のブランドはそれらとは異なり、その本質は「特定の状況で思い出される存在であること」、すなわち「想起の強さ」にあると考えています。

総合ディスカウントストアといえばドン・キホーテ、高級ブランドといえばルイ・ヴィトン。「〇〇といえばこれ」と正しく想起される状態こそが、ブランドが確立された状態であると定義しています。

これを採用に当てはめると、採用ブランディングとは「候補者の選択軸に従って、働く場所の選択肢として挙げてもらえる状態をつくること」です。「〇〇をしたいなら、〇〇で働くのがよい」と想起してもらうための状態をつくる一連の活動です。

また、候補者は最初から「入社したい」と思ってくれるわけではありません。応募までには「注目 → 理解 → 共感」という3つのステップがあり、段階的に意欲を高めてもらう設計をする必要があります。つまずきやすいのが真ん中の「理解」で、ここが弱いと、注目を集めても深い理解や共感へはつながりません。ここが採用ブランディングのセンターピンになります。

PPIHの新卒採用を読み解く

ここからは、恐縮ですが、採用ブランディングの視点でPPIHの採用を分析させていただきます。PPIHの採用は、新卒・中途・アルバイト・グループ会社の4つに大きく分かれますが、今回は新卒採用を中心に取り上げます。

題材は、PPIHの新卒採用サイトです。まず申し上げたいのは、サイトが徹底的に候補者目線で作られているという点。「源流」の『顧客視点』という思想が、サイトを見るだけでも伝わってきます。

サイトを開くと最初に現れるのが「20代爆速成長カンパニー」というメッセージです。成長意欲の高い20代のキャリア選択軸に合わせた、明確な訴求です。「ドンキは知っていてもPPIHという会社は知らない」という学生に向けて、売上2兆円規模であること、海外にも展開していること、さらに2兆円増やすチャレンジをしていること、実力主義で年功序列ではないことなどを、事実として段階的に提示しています。

さらに読み進めると、「もっと知りたい」という気持ちにもしっかり応えてくれます。会社での仕事や、キャリアパスの中にどんな職種があるのかが示され、「その仕事は実際どうなのか」と思ったときには、中で活躍している社員のインタビューも用意されています。

しかも、単なる記事だけではなく、その社員が社内でどんなキャリアを歩んできたかが可視化されています。候補者は、自分が活躍してキャリアアップしていく姿をイメージしたいものです。先輩の個々のキャリアが示されていることで、「自分もこんなふうに活躍してみたい」と思える。こうして「もっと知りたい」に段階的に答えていくことで、サイトを見るだけで「応募したい」「入社したい」という気持ちにつなげられる構成になっています。

新卒採用でここまでコンテンツを作り込んでいる会社はなかなか見られません。分析しながら、正直なところ感銘を受けました。

メッセージに「説得力」を持たせる根拠の充実度

一方で、「爆速成長」のようなメッセージは抽象的で、他社とも被りやすいもの。「自社も同じことを言っている」と感じる採用担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

弊社がブランドを設計するときは、ペルソナを明確にしたうえで、競合の中での立ち位置や自社の優位性、魅力を整理し、刺さるメッセージへと落とし込んでいきます。大切なのは、それを単なる会社紹介ではなく、候補者を「口説く」メッセージとして設計すること。キーメッセージ自体はシンプルでよいのですが、その理由を具体的な事実やエピソードで裏付けることで、はじめて説得力が生まれます。

PPIHは、まさにこの裏付けが充実しています。「爆速成長できる、なぜなら年功序列ではなく、若手から活躍できるから」というメッセージに対して、YouTubeの動画や具体的な事例で「本当だ」と示せる。見れば見るほど説得力が増し、メッセージが頭に残っていきます。誰もが言いたがる言葉に対して、非常に強いアピールができているのです。「20代爆速成長といえばPPIH」というブランドが、採用サイト全体から一貫して伝わってきます。

結論として、この採用サイトとブランディングはほぼ100点です。新卒採用に関して言えば、私たちがお手伝いするとしても、あまり出る幕がないかもしれない、というのが率直なところです。

中途採用の分析と、共通する「源流」

中途は新卒と違い、全国各地・多職種という多種多様なターゲットを抱えるため、それぞれの立場からはやや分かりにくい印象もあります。

ただ、そこにも一貫して流れているのが「源流」です。全国に多種多様な求人がある会社だからこそ、共通する魅力は、「源流」に従って行動できる人を求め、それができる環境であること。その一貫性は、サイトを見るだけでも分かります。

あえて改善の余地として挙げるとすれば、専門性の高い職種への対応です。エンジニアなどの技術職・専門職は、職種別の採用ページを設けて、その職種で知りたい情報をまとめる形が増えています。多職種で専門人材の採用が広がるなか、中途ではこうした手法が徐々に一般的になってきました。弊社の支援事例でも、同様の取り組みを行っています。

新卒・中途に共通して言えるのは、いずれも企業理念「源流」が求める人物像をそのまま表現しており、ここへの共感が入社理由につながっているということです。そして、その前提として、「源流」が組織に浸透していることが、Session 1でご紹介いただいたタレクエの土台にもなっています。理念がすべての施策の手前にある、というのがPPIHの強さなのだと思います。

Panel Discussion|未来の人的資本経営 × HRテクノロジー

▼登壇者:渡邊 琢太 氏(PPIH)/香川 憲昭 氏(HRテクノロジーコンソーシアム)/芹川 太郎

イベント後半では、3名によるパネルディスカッションを実施。採用の入り口からシステム、評価、組織づくりの未来まで、「源流」を軸に議論が展開されました。

「源流」はタレクエにどう組み込まれているのか

最初のテーマは、採用の入り口の部分だけでなく、入社後の活躍・評価の文脈でも「源流」が生きているのではないか、という芹川からの問いでした。

渡邊氏:
「源流」は、いくつかの形でタレクエに組み込まれています。たとえば「抜擢」。年功序列ではないので、結果を出せば若くても上に行けます。それから、ずっと同じポジションに居続けてはいけない、「ネクストミー」を育てるという文化もあります。自分の代わりとなる人を育ててポジションを譲り、自分は別の領域に挑む。こうした循環の文化が根づいています。

タレクエにもRPGのような「経験値」の概念があり、職位が昇格すると星がつき、キャラクターが豪華になっていきます。「同期の競争原理を働かせる」「抜擢のためのポジションを見える化する」「抜擢した人の次のキャリアパスを見せる」「競育」といった要素を、システムに織り込んでいます。

ここで話題にのぼったのが、PPIH WORDの一部である「主語の転換」でした。

渡邊氏:
本部にいても店舗にいても、「お客様ならどう考えるか」「社長ならどう考えるか」「他部署ならどう考えるか」と、常に主語を入れ替えて問い続けています。

「ドンキが好きですか?」──採用で見るカルチャーフィット

「源流」を採用面談でのカルチャーフィットの確認にどう活かしているのか。香川氏のこの問いに対する渡邊氏の答えは、率直なものでした。

渡邊氏:
正直に申し上げると、かつては「源流」に馴染めない人もいたと思います。だからこそ面接の最初に「ドンキに行きますか? 好きですか?」と確認します。当社には「源流」という考え方があり、その姿勢で働いてもらう。それをはっきり伝えたうえで、合う方であれば採用します。お互いが不幸になるよりは、最初に伝えたほうがいいという考え方です。

香川氏:
最初の段階でカルチャーにフィットする人が加われば、タレクエもより楽しんで活用してもらえますよね。カルチャーフィットの確認は、採用ブランディングの打ち手と合わせて、非常に重要な要素になっていると感じます。

渡邊氏:
「源流」のキーワードである「変化対応」も、カルチャーフィットを見るうえで欠かせません。型にはまって「これしかやりません」という人は、正直、当社には合わないでしょう。コロナや災害、時代の流れに変化対応できなければ、活躍は難しいと思います。

「源流」を採用にどう活かしているのか

話題は中途採用へと移ります。その前提として、PPIHがどんな人材を求めるのか、という考え方が語られました。

渡邊氏:
採用では、いかにニーズを拾うかが大事です。当社のPB(プライベートブランド)と同じで、「みんなの75点より、誰かの120点」。全員を対象にするのではなく、若いうちからガンガン挑戦したい人にフィーチャーするほうが、ドン・キホーテやアピタとしては伸びる。それが分かっているので、欲しい人材像をはっきり打ち出しています。

その上で、中途採用におけるカルチャー浸透も大きなテーマとなりました。

渡邊氏:
中途採用で入って来られる方はもともと能力があります。あとは、文化が合うかどうかです。中途で入社すると、最初は当社ではなかなか通用しません。だからこそ、まず文化を学び、その経験を後で活かす。文化を知ることが、何より大事になります。

芹川:
中途入社の方がどんなステップを踏んで活躍しているかが見えていれば、本人も安心して働けます。転職直後は苦労して不安になり、本来活躍できる方が途中で辞めてしまうこともある。それを防ぐ意味でも、「このくらい時間がかかってもいい」と事例とセットで分かるのは、とても有効だと思います。

タレクエの今後と、現場を動かす「アナログ」の力

タレクエを今後どうアップデートしていくか。この問いには、運用と改善の重要性が語られました。

渡邊氏:
2025年8月のオープン後すぐに、若手中心のヒアリングを実施して、2026年4月にブラッシュアップしました。ユーザビリティに加えて、経営目線で重要な「若手の抜擢」の強化にも取り組んでいます。

高校野球に例えると、分かりやすいかもしれません。我々のように全国展開している会社では、たとえば、人事部からは甲子園に出場した選手は見えても、地方大会で活躍して敗れた「原石」、大谷 翔平選手のような人材は見えません。だからこそ各地の店長や社長に実際に見て書いてもらい、その記述を一つひとつ確認して抜擢人事に活かしています。若手になるほど人事データは乏しいので、アナログの情報で全国的に発掘していきます。

芹川:
いかに優れたシステムでも、入っていない情報は分析できませんし、入力された情報以上のインサイトは得られません。多くの従業員が全国にいるなかで、いかに有意義な情報を入れてもらうのか。タレクエは、それをゲーム化することで徹底的にやりきっているのですね。

渡邊氏:
従業員がシステムに入力しないのは、「どうせ使われていないだろう」と思っているからです。抜擢につながると分かれば、「それなら自分も入力しよう」となり、好循環が生まれます。

理念が浸透しているからこそ、システムが活きる

タレントマネジメントシステムの導入について相談を受けるなかで見えてきた、他社との違いも話題になりました。実際に40社ほどとやりとりをしたそうですが、その多くは「従業員が入力してくれない」「工数削減できないか」といった悩みを抱えているそうです。

渡邊氏:
今回のタレクエ導入では、工数削減を目的とするのではなく、人材の抜擢・成長・見える化の実現を最優先に考えています。競育に基づく育成・教育の文化は、他社にはほとんどないと感じます。同期と比較されるのを好まない人もいるなかで、当社は「それよりも競争しよう」となる。その文化の違いが大きいんです。

香川氏:
タレントマネジメントシステムは、もともとピラミッド型組織を前提に、上位職へ登るためのセレクションとして欧米で生まれた概念です。一方、日本の多くの企業には抜擢の文化が根づいていません。PPIHは20年ほど前から教育制度が業界で知られるほど、選抜の文化が組織に根づいています。だからこそ、本当の意味でのタレントマネジメントが「生きた運用」になっているのだと感じます。

芹川:
「競争はあったほうがいい」という前提が組織に根づいているからこそ、PPIHは、システムを設計する際に「どんな組織を目指すのか」という根本の議論で足踏みすることが少ないのではないかと思います。理念や行動指針が明確で、具体的な行動にまで落とし込めているか。それが、HR系システムを作る生産性そのものを左右します。システムの設計以前に、どういう組織で何を大事にする会社なのかが曖昧なままだと、時間もかかり、作った後に「違う」となりやすい。理念という「魂」が先にあってこそ、システムは活きます。なかなか真似できない、というのが正直な感想です。

会場からは「中途で入社した社員に文化を知ってもらうために、具体的に行っている施策はあるか」という質問も上がりました。

渡邊氏:
正直に言うと、特別な研修というより、入社すれば自然に体感できます。最初は衝撃を受けるくらいですが、だんだん楽しくなってくるはずです。自分でやるべきことを見つけて動く状態になる、という感じですね。

私自身、ずっと情報システム部門にいたのですが、いきなり人事に異動して「さて何をしよう」と自分で仕事を探しました。人事として、一人でも多くの従業員を称えることはできないか。そこでレッドカーペット形式のアワードを提案したら、「じゃあ、やろう」と任されて全部やりました。「いいね、いつやるの?」というスピード感のある会社です。

では、「源流」と評価とはどう結びついているのか。渡邊氏は、浸透の仕掛けがほかにもあると続けます。

渡邊氏:
評価は基本的に成果主義ですが、「源流」ともつながっています。職位定義の中に「源流」の言葉を入れ、「これができたらマネージャー」というように、基準そのものに組み込んでいます。「源流」についての教育も行っていますし、全社での「源流を語る会」もあります。社内には「源流伝道士(エヴァンジェリスト)」という役割があり、私自身も伝道士の一人です。伝道士が集まって、「自分はこうしている」と語り合っているんです。

語り合う頻度は、部署によってはなんと週1回。この熱量に、香川氏はご自身の体験を重ねます。

香川氏:
私はKDDIで、3社合併を経験しました。異なる企業文化が混ざり合うカオスのなかで、稲盛和夫さんが大切にされていたフィロソフィーを浸透させるため、合併直後から時間をかけて「語り合う会」に取り組みました。エヴァンジェリストのような存在もいて。理念は、そうやって地道に積み上げて浸透させていくものだと思います。

なお、議論の中ではトラックレコードのプロダクト「Colla」にも話が及びました。Slack上で企業のバリューを絵文字にして感謝の気持ちを送り合い、行動指針を体現している社員が定量的に分かるようになるツールです。理念や文化を可視化して称え合うという発想が、PPIHの取り組みとも通じる点として話題になりました。

最後に:理念の言語化は「一石三鳥」の打ち手

芹川:
今日のPPIH様の事例で、理念の重要性を感じていただけたのではないかと思います。理念は、いわば一石三鳥の打ち手です。しっかり言語化して落とし込めば、採用ではカルチャーフィットの高い人材を採る強力な武器になります。「20代で抜擢」と最初から伝えて入社してもらえば、オンボーディングも効率的になります。さらに「タレクエ」のように組織力の強化につながり、それがノウハウ化されればM&Aも成功しやすくなる。PPIHのような爆速成長を実現する打ち手になると思います。理念の言語化がまだ十分でないと感じる企業にこそ、ぜひ取り組んでいただきたいです。

こうして、セミナーは幕を閉じました。

PPIHの事例が示すのは、優れたHRテクノロジーの裏に、明確に言語化され、組織の隅々まで浸透した理念が存在するという事実です。「管理」のためのシステムから「勝つ」ためのシステムへ。その鍵を握るのは、自社の「らしさ」をどこまで言葉にできるか、という問いなのかもしれません。


トラックレコードでは、事業・組織の強みを起点に、採用ブランディング戦略の設計から実行までを一貫して支援しています。人事戦略やスカウトに関するご相談も随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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