EVPとは?選ばれる会社の「働く価値」を言語化する6ステップ

給与や福利厚生だけでは、候補者に選ばれる理由を伝えきれません。では、「この会社で働きたい」と思ってもらうには、何をどう伝えればよいのでしょうか。その手がかりが、働く価値を言葉にするEVP(従業員価値提案)です。

この記事では、EVP(従業員価値提案)の意味から、働く価値を言語化する6ステップ、実際の企業事例までをご紹介していきます。

EVP(従業員価値提案)とは

「EVP」という言葉を、採用ブランディングや人的資本経営の文脈で目にする機会が増えてきました。また、EVPはエンプロイヤーブランディングやMVVと混同されることもあります。 

ここでは、EVPの定義とエンプロイヤーブランディングやMVVとの違い、EVPを構成する6つの要素を解説します。

EVPの意味と定義

EVP(Employee Value Proposition)とは、企業が従業員に提供できる価値を言葉にしたもので、「従業員価値提案」とも言われます。「この会社で働くと、何が得られるのか」という問いに対する、会社としての答えのことです。

EVPに含まれるのは、給与や福利厚生だけではありません。仕事の面白さや成長できる環境、一緒に働く人、事業の社会的な意義など、目に見えにくい価値も含めて考えます。これらは

  • 契約的価値(給与・休日などの条件)

  • 経験的価値(仕事内容・成長機会)

  • 感情的価値(事業への共感・誇り)

の3つに分けて整理されることもあります。

また、EVPは社外の候補者だけでなく、いま働いている社員にも向けたものです。社員が「確かにそうだ」と感じられる中身であることが前提になります。

エンプロイヤーブランディング・MVVとの違い

EVPは「従業員に何を約束するか」という中身、エンプロイヤーブランディングは「それをどう伝えるか」という活動、MVVは「会社が何を目指すか」という方針を指します。

EVP(エンプロイー・バリュー・プロポジション) 

エンプロイヤーブランディング

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)

意味

企業が従業員に提供する価値

「働く場」としての企業イメージをつくる活動

企業の使命・目指す姿・価値観

答える問い

この会社で働くと何が得られるか

働く場としてどう見られたいか

会社は何のために存在するか

3つの関係

ブランディングで伝える中身

EVPを届ける手段

EVPの土台になる考え方

MVVという会社の方針を土台に、それを従業員の目線で「働く価値」に置き換えたものがEVPです。そのEVPを社内外に届けていく活動が、エンプロイヤーブランディングにあたります。

EVPを構成する6つの要素

EVPの要素は、トラックレコードが採用戦略の設計で使っている分類では、次の6つに分けられます。給与や福利厚生(環境)だけでなく、事業や仕事そのものの魅力まで広げて洗い出すのがポイントです。

要素

魅力の例

市場

成長している市場で働ける、社会課題の解決につながる

事業・プロダクト

自社サービスを持っている、立ち上げ期に関われる

仕事

上流から関われる、裁量が大きい、マネジメントに挑戦できる

人・チーム

専門性の高いメンバーがいる、チームで働く文化がある

会社・文化

方針がぶれない、フラットに発言できる、経営基盤が安定している

環境

成果を評価する仕組みがある、学習支援がある、柔軟に働ける

6つすべてで他社を上回る必要はありません。届けたい相手に響く価値を選ぶための材料として使います。

EVPが注目される2つの背景

求人票に条件をそろえて載せても、それだけでは候補者が知りたいことに答えきれない場面が増えています。

しかし、候補者が企業を比べるときの見方と、企業に求められる情報開示の両方が変わってきたことで、「自社で働く価値」を言葉にしておく必要性が高まっています。

ここでは、EVPが注目される2つの背景を、調査データをもとに解説します。

仕事内容とキャリアで企業を比べる人が増えた

候補者は、給与や休日に加えて「どんな仕事ができるか」「ここでどんなキャリアを描けるか」を見て企業を比べています。学情(2025年)の20代転職希望者への調査では、新卒の就職活動と比べて重視するようになったことの1位が「仕事内容」(47.4%)、2位が「自分自身の今後のキャリアビジョン」(47.0%)でした。

仕事内容やキャリアの魅力は、求人票の条件欄には書ききれません。自社ならではの仕事の面白さや成長の道筋を、EVPとして言葉にしておく意味がここにあります。

人への投資を説明することが求められている

2023年3月期以降、上場企業などは有価証券報告書で、人材育成方針や社内環境整備方針を記載することが求められています(金融庁(2023年))。

ただ、開示した人材戦略が採用の現場までつながっているとは限りません。

TOPIX100企業の人的資本開示を調べた人的資本開示調査 2026では、事業に必要な人材をどのような構成でそろえるかという計画(人材ポートフォリオ)について、具体的な記載がない企業が48%ありました。

どんな人材を求めているのかが見えにくいままでは、候補者にも自社で働く価値が伝わりにくくなります。経営として掲げる人材戦略と、採用で候補者に伝える価値をつなぐ軸として、EVPが役立ちます。

EVPを明確にする3つのメリット

EVPが定めることで、採用で伝える内容から入社後の体験、社員の定着までを同じ軸でそろえられるなど、様々なメリットがあります。

ここでは、EVPを明確にすることで得られる3つのメリットを解説します。

①自社に合う人材が集まりやすくなる

EVPが明確になると、自社の価値に共感する人から応募が集まりやすくなります。「この会社ならでは」の価値を打ち出すことで、合う人には強く響き、合わない人は応募前に判断しやすくなるためです。条件面の競争から一歩離れ、仕事内容やキャリアの面で比べてもらえるようになる点もメリットです。

②入社後のギャップを減らせる

EVPは、入社後のミスマッチを減らすことにも役立ちます。採用時に伝えた内容と入社後の体験が一致していれば、「聞いていた話と違う」と感じる場面が少なくなるためです。良い面だけでなく実態に沿った情報を伝えておくことで、早期離職の防止やオンボーディングにもつながりやすくなります。

③社員が働き続ける理由がはっきりする

EVPは、いま働いている社員の定着にも効果が期待できます。自社で得られる価値が言葉になっていると、他社から声をかけられたときにも、今の会社で得ているものと比べて判断しやすくなるからです。社員自身が自社の魅力を説明できるようになり、リファラル採用や面接で語られる内容にも一貫性が生まれやすくなります。

「働く価値」を言語化するEVPの作り方6ステップ

EVPの必要性はわかっても、「何から手をつければいいのか」「きれいな言葉を並べるだけで終わらないか」と迷う担当者も多いのではないでしょうか。

ここでは、トラックレコードが採用戦略の設計支援で実践している進め方をもとに、EVPの作り方を6つのステップで解説します。

ステップ

ポイント

①社員の声を集める

経営や人事の想定ではなく、現場の実感を集める

②競合を調べる

同業界に限らず「同じ人材を採り合う会社」と比べる

③できないことも含めて言葉にする

勝てる価値に絞り、提供できないことも隠さない

④評価制度と言っていることを揃える

言葉と制度のずれをなくし、社内に先に浸透させる

⑤採用サイトや求人票で発信する

すべての接点で同じメッセージを使う

⑥定着率やeNPSで効果を確かめる

指標で検証し、定期的に見直す

①社員の声を集める

EVPづくりは、社員が実際に感じている魅力を集めるところから始めます。経営層や人事が「伝えたい魅力」と、社員が「感じている魅力」は、ずれていることがあるためです。

トラックレコードでは、6つの要素ごとに細かな魅力の項目を並べたシートを用意し、社員に「当てはまる・どちらとも言えない・当てはまらない」で答えてもらうことがあります。そのうえで「面接で候補者に聞かれたら、どう説明するか」をイメージして具体的なエピソードを書いてもらうと、言葉にするための材料が集まりやすくなります。営業やCSなど、さまざまな職種の社員に話を聞くと、社内では当たり前になっている魅力が見つかることもあります。

②競合を調べる

次に、採用したい人材が自社と比べている企業を洗い出します。ここでいう競合は、事業上の競合とは限りません。たとえばエンジニアを採用するなら、業界が違っても同じスキルを持つ人材を採用している企業が「人材競合」になります。

人材競合の採用サイトや求人票で打ち出している価値を確認し、ターゲットが仕事に求めること(裁量の大きさ、事業の成長性など)ごとに、自社が「勝っている」「同等」「下回っている」のどれにあたるかを整理します。ここで見えてくる「勝っている」項目が、EVPの中心に据える候補です。

③できないことも含めて言葉にする

集めた魅力と競合との比較をもとに、ターゲットに響き、競合に勝てる価値を3〜5つ程度に絞って言葉にします。

このとき、提供できないことも隠さずに整理しておきます。
たとえば「手厚い研修制度はないが、入社直後から大きな裁量を任せる」のように、良い面と引き換えになっている点も伝えることで、価値観の合う人が集まりやすくなります。

社内用語にも注意が必要です。社内では強みとして使っている言葉が、候補者にはピンとこないこともあります。また、それぞれの価値には「なぜそう言えるのか」を示す事実やエピソードをセットで用意しておくと、言葉だけが先行するのを防げます。

④評価制度と言っていることを揃える

EVPを言葉だけで終わらせないためには、評価制度や日々のマネジメントと内容を揃えることが欠かせません。たとえば「挑戦を歓迎する」と掲げていても、評価が失敗を減点する仕組みのままだと、社員は「言っていることとやっていることが違う」と感じやすくなります。

EVPで約束している価値が、昇給・昇格の基準や表彰制度、仕事の任せ方などに反映されているかを確認し、ずれがあれば表現か制度のどちらかを見直します。あわせて、管理職に1on1や評価面談のなかでEVPに触れてもらうと、社員が日々の仕事のなかで実感しやすくなります。社外に発信する前に社内で共有しておけば、面接で社員が語る内容とのずれも防げます。

⑤採用サイトや求人票で発信する

社内で共有できたら、候補者との接点でEVPを発信していきます。採用サイト、採用ピッチ資料、求人票、スカウト文面、面接での説明など、すべての接点で同じメッセージを使うことが大切です。

接点

伝え方のポイント

採用サイト

EVPの全体像と、根拠となる事実・社員の声をまとめて載せる

採用ピッチ資料

事業・仕事・組織の魅力を、面談や選考で使える形にまとめる

求人票・スカウト文面

ターゲットに最も響く価値を1〜2つに絞って伝える

面接・面談

社員自身の経験として語ってもらう

⑥定着率やeNPSで効果を確かめる

EVPは一度つくって終わりではなく、指標で効果を確かめながら見直していくものです。

採用では

  • 応募数

  • スカウト返信率

  • 内定承諾率

定着では

  • 入社1年以内の離職率

  • 社内の実感ではeNPS(自社を親しい人に勧めたいかを0〜10で聞く指標)

  • エンゲージメントサーベイの結果

が目安になります。

あわせて、候補者が話す志望理由や退職者の退職理由も確認すると、EVPが実態とずれていないかを把握しやすくなります。事業や組織が変われば提供できる価値も変わるため、年1回など定期的に点検する機会を設けておきましょう。

EVPの要素を言語化し、採用に活かした事例

EVPの考え方はわかっても、実際にどう言葉にし、採用にどんな変化があったのかは、イメージしにくいかもしれません。

しかし、社内で当たり前になっていた考え方や言葉を候補者の目線で捉え直したことで、採用の手応えが変わった企業もあります。

ここでは、トラックレコードが支援した企業のなかから、自社で働く価値を言語化し、採用に活かした事例を紹介します。

株式会社マンガボックス|電子出版

支援の背景:

マンガ配信アプリから「電子出版社」へと事業を転換したタイミングで、採用市場での見え方を整理し直すことが次のテーマでした。

言語化した働く価値:

作家を大切にする姿勢を「作家ファーストの3F」(Fairness:フェアな経済条件、Fast:スピード感、Faith:誠実な対応)として具体化しました。あわせて「All for Future Masterpieces(みんなが"未来の名作"のために)」というメッセージで、作家と担当編集だけでなく全社でヒット作をつくる体制を打ち出しています。

編集者をめざす候補者にとって、作家に真剣に向き合い、全社の協力を得ながら作品づくりに取り組める環境であることが伝わり、共感を得やすくなったといいます。

引用:株式会社マンガボックス「会社概要資料」

成果:採用戦略設計・採用ピッチ資料、会社サイトの制作からRPOまでの支援全体を通じて、応募者数は以前の約1.3倍に増加し、支援期間の10ヶ月間で11名の採用を実現しました。

詳細は株式会社マンガボックス様の事例インタビュー記事をご覧ください。

マンガボックス様の事例のように、社内では当たり前になっている強みも、働く人にとっての価値として捉え直すことで、候補者に届く言葉に変わることがあります。ただ、社員へのヒアリングから言語化、採用ピッチ資料や求人票への展開までを、日々の採用業務と並行して進めるのは負担が大きくなりがちです。

トラックレコードの採用ブランディング支援では、現場へのヒアリングをもとに自社の魅力を言語化し、採用ピッチ資料や採用サイトの制作、スカウト運用まで一貫してサポートしています。

自社の魅力をどう言葉にするか迷ったら、ぜひトラックレコードにご相談ください。

EVPに関するよくある質問

EVPに取り組もうとすると、誰が進めるのか、どの規模の会社から必要なのか、いつ見直すのかといった疑問も出てきます。

ここでは、EVPについてよくある3つの質問にお答えします。

EVPは誰が中心になって作るべきですか?

EVPは、人事が推進役となり、経営層と現場の社員を巻き込んで作るのが一般的です。
人事だけで作ると現場の実感とずれやすく、経営層だけで作ると理想が先行しやすいためです。採用担当者が中心になる場合も、早い段階で経営層の合意を得ておくと、評価制度との連動まで進めやすくなります。

EVPは中小企業やスタートアップにも必要ですか?

中小企業やスタートアップにこそ、EVPに取り組む価値があります。
社員数が少ない企業は全員の声を集めやすく、経営層と現場の距離も近いため、EVPをつくりやすい面があるからです。知名度で大手企業と競うのが難しい場合でも、「この会社ならでは」の価値が言葉になっていれば、候補者に比べてもらうきっかけをつくれます。

EVPはどのくらいの頻度で見直すべきですか?

年に1回程度、採用や定着の指標を確認しながら点検するのがひとつの目安です。加えて、新規事業の立ち上げや組織再編など、事業や組織が大きく変わるタイミングでも見直しを検討しましょう。提供できる価値が変わったまま古いEVPを発信し続けると、入社後のギャップにつながりやすくなります。

EVPは社員の実感から言葉にし、選ばれ続ける組織をつくろう

EVPとは、企業が従業員に提供できる価値を言葉にしたものです。社員の声を集め、人材競合と比べ、できないことも含めて言語化し、制度や発信まで揃えていくことで、候補者にも社員にも信じてもらえるEVPに近づけます。

トラックレコードでは、魅力の言語化から採用ピッチ資料・採用サイトの制作、スカウト運用まで、採用ブランディングを一貫して支援しています。まずは社員の声に耳を傾けるところから、自社ならではの「働く価値」を探してみてはいかがでしょうか。

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