2019年7月17日

インタビュー

「自分自身が満足できる仕事を一生懸命やろう」上場企業開発部長を経て起業を選んだ井原正博のキャリアパス

2014年に株式会社ビットジャーニーを創業し、CEOとして情報共有ツール「Kibela(キベラ)」の開発・運営に携わる井原 正博(いはら まさひろ)さん。本業と並行して十数社の技術顧問も務め、エンジニアの採用から技術選定、評価の仕組みづくりまでサポートしています。

井原さんはこれまでどういったキャリアを歩み、いまの場所にたどり着いたのでしょうか。メンタリングへの意気込みとあわせて詳しくお話を伺いました。

プロフィール| 井原 正博

ヤフー株式会社にて開発部長を務めたのち、2010年1月よりクックパッド株式会社の技術部長として技術力の向上やエンジニアの採用に従事、今日にいたる基礎をつくりあげる。
2015年1月、株式会社ビットジャーニーを設立し、個人の発信を組織の力にする情報共有ツール「Kibela」を開発中。
エンジニアを中心とする組織づくりに関する知見や経験を活かしたいという思いから、複数社の技術顧問を務める。

文系出身・未経験から大手ソフトウェア開発へ

―まずはプログラミングと出会ったきっかけから教えてください。

きっかけは大学3年の就職活動です。経済学部だったんですが、仕事を探すにあたって漠然と「モノづくりに携わりたい」、「プログラミングならできるかもしれない」と思っていました。何かの職人になるための修行となると大変そうですが、プログラミングであれば自分でもできるかもしれないと。

面接を受けたのは3社ほどですが、そのなかでジャストシステムから内定をもらい、内定後にC言語のプログラミングから勉強し始めました。当時のジャストシステムは業績が伸びていて、エンジニアリング未経験でも採用する枠があったんだと思います。

―ジャストシステムへ入社後はどういった仕事をしていたんですか?

まずはOJTでCとC++、あとは当時使われはじめていたJavaを少し勉強して、Windows向けアプリの開発チームに配属されました。「三四郎」という表計算ソフトの開発です。

3年くらい経つと世の中的にWebへの流れが強くなり、会社もASPを標榜するようになってきました。「これは新しいことを始めるチャンスだ」と思い、当時在籍していた徳島本社から東京にあったラボへの転勤願を出したんです。それが受理されて、東京ではメディア系のWindowsアプリ開発や、当時ソニーが出していた「エアボード」という端末のサーバーサイドの開発も担当しました。

ただ、そうした開発も続けているうちにだんだん面白みが薄れてきて…もう少し違う世界に行ってみたいと思うようになってきました。それで2001年にモバイル関連のソフト開発会社に転職したんです。

周囲に追いつくために、時間もエネルギーも惜しみなく投資した

―「違う世界に行きたかった」というのは、具体的には?

当時はちょうど携帯電話向けのアプリがJavaで動くようになりはじめた時期で、「面白そう」、「これをつくりたい」と思ったのが1つ。あと、ジャストシステムはやはり大きい会社で、自分が関われる領域が限られてしまうことへの歯痒さもあったかもしれません。

転職先の会社では、携帯向けアプリを開発するためのシミュレーター開発を担当しました。Javaのアプリ開発者向けのツール開発という、技術的に尖ってはいるがニッチな領域に携わったことで、逆に「もっと多くの人に使ってもらえるサービスをつくりたい」という気持ちも芽生えてきました。

―お仕事もハードな環境だったと伺っていましたが。

そうですね。僕は文系出身でエンジニアとしてのバックグラウンドもなかったので、とにかく一生懸命頑張らないと周囲と同じようなレベルになれませんでした。ジャストシステムにいた時代も含め、時間もエネルギーも可能な限り自分に投資するようにしていました。夜中遅くまで働くこともありましたが、嫌だと思ったことはまったくなかったですね。

32歳でヤフーの技術部長に

その後、井原さんは2002年にYahoo! Japanへ入社されます。この時の転職の背景について教えてください。

当時プライベートでYahoo!メッセンジャーを使っていて、場所・時間を問わず複数の人とコミュニケーションがとれることに新鮮味を感じていました。加えて前職での経験から「たくさんの人に使ってもらえるサービスをつくりたい」という思いもあり、「Windows向けのソフトウェアなら自分もつくれる」と考えて転職を検討しはじめました。

当時は転職エージェントの存在も知らなかったので、ヤフーのページのフッタにある求人情報からエントリーして、Windowsクライアントのソフトウェアエンジニアとして採用されたんです。

入社後は徐々にサーバーサイドの開発へと関心が移っていきました。ただ、自分以外にWindowsクライアントの開発ができる人がいなかったので、目の前の実務にしっかり向き合いつつ、周囲に要望を伝えていきました。

そこから次第にYahoo!チャットや掲示板といったコミュニティ系のサービス全般を任せてもらえるようになり、最終的にはコミュニケーション系のサービスを統括する事業部の技術部長に就きました。それが32歳の時ですね。

―粘り強く仕事に取り組みながらエンジニアとしての領域を広げていかれたんですね。現場からマネジメントサイドへ移ることに対しては抵抗感をありませんでしたか?

マネジメントサイドに移ることへの抵抗は一切ありませんでした。むしろ、自分が部署を引っ張っていく、環境を変えてやろうという意気込みの方が大きかったですね。

―具体的にどういったことを変えようとしたのでしょうか?

当時のYahoo! Japanのサービスの大半は、米国のYahoo! Inc.(当時)から持ち込んだサービスを日本向けにローカライズして展開していました。エンジニアの仕事としてもゼロから何かをつくるわけではなく、文字列を日本語化したり、ソースにちょっとした改修を加えたりといった作業がメインです。

あとは環境の面。たとえばヤフーはエンジニア向けのライブラリがすごくしっかり整備されているんですが、それを上手く使いこなしたとしても、結局はヤフーの中だけの仕組みに対して詳しくなるだけ。外では役に立たないんですね。そういった環境に疑問を感じて変えようとしたんです。「もっと自分たちで考えてつくっていこう」と。

ただ結果的に変えるのは難しかったですね。当時の僕はまだ30代前半で部長陣のなかでも最年少クラス。組織を変えるための力と実績が足りず、自分の部下を守ることさえ難しい状況でした。

クックパッドでのエンジニア組織づくりと新規事業立ち上げ

―2010年にクックパッドへ転職されたのはどういった背景があったのでしょうか?

当時の自分ではヤフーの組織を変えるが難しいという背景がありました。ヤフーはとにかく組織が大きく、エンジニアだけでも約1,500人いました。それを動かすためには自分の力が足りていませんでした。

また、当時のヤフーでは四半期ごとに目標設定を行なっていたのですが、技術部長になって以降はExcelでの集計やパワポの資料作成をすることが増えてきて「このままでは自分はだめになってしまう」と悩んでいました。そうしたタイミングでクックパッドを紹介されました。

ヤフーの同僚がクックパッドの知り合いで、以前からいろいろと話を聞いていましたし、自分自身もコミュニティ系サービスに関わっていたので、CGMにも興味がありました。当時のクックパッドは社員約60名、エンジニアも7~8名ほどで、これから組織をつくっていくという話を聞いて入社を決めました。

―クックパッドではどういった業務を?

採用、組織づくり、仕組みづくり全般です。ヤフーでは開発実務から離れていたので、入社当初はサービス開発に携わりたいという気持ちもあったんですが、これから組織を固めていくということで、まずはエンジニアチームをつくることにフォーカスしました。毎日のように応募書類を見て、面接して、食事をしてという感じですね。

また、オフィスを増床してエンジニア専用のフロアをつくるという話が出てときは、IKEAに行って椅子やカーペットを選んだりもしました。これはこれで楽しかったですね(笑)。

そうやって人を集めて環境を整えていった結果、入社2年後の2012年にはエンジニア40名体制の組織ができました。

当時のクックパッドは新しいことを一早く導入しており、OKRも1on1も2010年くらいから既に取り組んでました。自分自身も採用をやりつつ、組織づくりの比重が大きくなっていきました。
そうなってくると、開発に携わることはほぼなくなっていきました。足も引っ張るし、そもそも自分より優秀なエンジニアを採用してきたので、自分が入る余地がないとも考えていました。それよりは自分が得意なところ、できることにフォーカスしていました。

ー採用・組織開発に注力されてきたんですね。

そうですね。その後、エンジニアの組織が50名くらいになったタイミングで、自分でもサービスをやりたいという想いをつたえ、新規事業の立ち上げを担当させてもらいました。

クックパッドのユーザー同士がコミュニケーションするための掲示板です。それまで現場から離れていたので、まずは1ヵ月くらい猛勉強して、2週間で実装・リリースして、その後の企画・運用まですべてやりました。

コメント投稿も許可制をやめて完全オープン投稿にしたときは「炎上していたらどうしよう…」と、眠れない日が続いたり(笑)。いろいろと大変でしたが、結果的には月間100万~200万UUくらいのサービスに成長しました。この時の経験が起業する1つのきっかけになったと思います。

他人の評価はコントロールできない。変えられるのは自分自身

―これまでの井原さん自身のキャリアのなかで、一番悩んでいた時期はいつですか? その悩みを解消した方法があれば、あわせて教えてください。

若い頃に、サーバーサイドの開発がやりたいにもかかわらず、なかなかやらせてもらえなくてモヤモヤしていたりなどありましたが、直近だとクックパッド時代に葛藤していた時期があったかなと思います。

先程お話したしたように、自分自身は採用や組織開発にフォーカスしていたわけですが、その過程で「彼らはエンジニアリングで評価されるが、自分はいったどこで評価されるのだろう」と考えていた辛い時期がありました。

ただ、そうして苦しみながらも仕事を続けていくうちに、結局はそれぞれの領域で勝負すればいいのだと気づきました。エンジニアはいいサービスをつくって評価される、自分はそのサイクルをつくる。その役割の違いだと。そう気づいた時に振り切れたというか、自分のなかで納得がいって、その後は自然と周囲の評価もついてくるようになりましたね。

周りからの評価を気にして、それに対して不満を言ったとしても、結局のところ他人の評価はコントロールできません。その一方、自分のスタンスや行動は変えられる。自分自身が満足できる仕事を一生懸命やっている方が気持ちいいですし、評価はその後についてくるものだと思います。

相手が「そうしたい」と思えるアドバイスを送りたい

―ここからは普段のメンタリングについて教えてください。kiitokでの1on1や、技術顧問として他社のエンジニアと面談する時は、どのように話を進めますか?

なるべく相手の人に話してもらいたいので、どうやったら話を引き出せるか考えながら進めます。

課題や悩みに対して「なぜそう思うか?」、「どうしたいのか?」掘り下げて、相手の方から背景や目標を話してもらったうえで、「自分が同じ立場だったらこうするかも」とアドバイスします。自分が言うことが常に正しいとはまったく思っていないので、ああしろ、こうしろとは言いません。

―メンターとしての強み、井原さんだからこそ話せることはありますか?

いまは経営者なので、経営者の立場として「CTOはこうあってほしい」とか、そういった話はできるかと。あとはエンジニアとしてひと通りの立場を経験してきたので、それぞれの立場での課題・悩みにも共感できると思います。

―周りからはどんな人だと言われますか?

周りから言われているかどうかはわかりませんが、自分自身では常に優しく謙虚でいたいと思っています。その一方でやるべきことはドライにやる一面もあるかもしれません。アサイン変更やプロジェクトのクローズなど、苦しい決断でもそれが必要なら自分が負債を負ってでもやります。

部下に対しては、自分のやり方を押し付ける上司にはなりたくないですね。相談に対しても「こうするべき」ではなく、相手が「そうしたい」と思えるようなアドバイスをしたいです。力強さには欠けるかもしれませんが(笑)。

—ありがとうございました!


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