2026年6月11日

採用ノウハウ

人的資本開示を採用戦略に活かすには?TOPIX100から学ぶ採用要件の作り方

経営陣から「人的資本開示を意識した採用をしてほしい」と言われたものの、有価証券報告書や統合報告書に書かれた抽象的な言葉をどう求人票や選考基準に落とし込めばいいのか、悩んでいる採用担当者は少なくないのではないでしょうか。

この記事では、人的資本経営が求められる時代に、採用戦略をどう組み立てるか。TOPIX100企業の開示調査データをもとに、実務に使える視点と3つのステップを解説します。 

人的資本開示と採用戦略の関係

人的資本という言葉は広く使われるようになりましたが、採用実務との関係まで明確に整理できている企業はまだ多くはありません。人的資本を「開示する」だけでなく、採用戦略に活かすには、まず経営戦略・人材戦略・採用要件のつながりを理解する必要があります。

ここでは、人的資本の基本的な考え方と、採用戦略につなげるための見方を整理します。

人的資本とは

人的資本とは、人材を単なる労働力やコストではなく、企業価値を生み出す資本として捉える考え方です。人材の経験、スキル、知識、リーダーシップ、組織への貢献力などを、企業の成長を支える重要な資産として扱います。

2023年3月期以降、上場企業には有価証券報告書での人的資本開示が義務付けられ、人的資本は経営上の重要テーマとして位置付けられるようになりました。

人的資本経営では、個別指標の開示にとどまらず、どのような人材を必要とし、どう育成・配置し、事業成長につなげるかが問われます。採用においても、欠員補充や採用人数の達成だけを目的にするのではなく、将来の企業価値創出に必要な人材を迎える視点が求められています。

採用戦略とどうつながるのか

採用戦略は、人材戦略を実現するための入り口です。どれだけ優れた人材育成制度や配置方針があっても、そもそも必要な人材を採用できなければ、人的資本経営は実行に移せません。

たとえば、DXを重点テーマに掲げる企業であれば、デジタルサービスを企画できる人材、データを活用して事業を改善できる人材、プロダクト開発をリードできる人材が必要になるかもしれません。

このように、採用要件は単独で作るものではありません。経営戦略で重視する領域があり、その実現に必要な組織能力があり、さらにそれを担う人材像があります。採用戦略は、この流れの先に設計されるものなのです。

人的資本開示は採用戦略の材料になる

2026年3月には内閣官房から「人的資本可視化指針(改訂版)」が公表され、人的資本開示では、経営戦略と人材戦略の連動がより重視されています。

統企業が公開する合報告書や有価証券報告書には、経営が重視する事業テーマ、育てたい人材の方向性、強化したいケイパビリティ(組織能力)、リスキリングなどが記載されています。

しかし、それらの開示資料は採用担当者向けに書かれたものではありません。そこに書かれている「専門人材の強化」「変革人材の育成」「人材ポートフォリオの最適化」といった表現を、求人票にそのまま載せても候補者には伝わりません。

人的資本開示を採用戦略に活かすには、開示資料の言葉を職種、役割、必要経験、期待成果、評価基準に分解することが重要です。

なぜ今、人的資本開示を採用に活かす必要があるのか

採用市場では、人手不足や専門人材の獲得競争が続き、従来のように求人を出せば候補者が集まる状況ではなくなっています。さらに、人的資本経営の浸透により、採用活動にも経営との一貫性が求められています。

ここでは、なぜ人的資本開示を採用に活かす必要があるのか、3つの観点から解説します。

人手不足で採用難度が上がっている

多くの企業で、採用難度は年々高まっています。特にデジタル人材やエンジニアなどIT人材の人で不足は多くの企業で課題となっています。経済産業省の調査によると、IT業界の人材不足は2030年に最大79万人に達する見込みです。

出典:経済産業省「IT 人材の最新動向と将来推計に関する調査」

こうした状況では、人的資本の視点に基づいた採用戦略が不可欠です。「何のために、どのような人材を採用するのか」を明確にし、経営戦略と連動して設計することが、効率的に採用力を高めるカギとなります。

優秀人材の母集団形成が難しくなっている

優秀な候補者ほど、求人票だけで応募先を決めません。IR情報や統合報告書、人的資本開示、採用サイト、社員インタビューまで読み込み、「この会社で働く意味」を見極めようとします。

だからこそ、人的資本開示で掲げる方向性と、求人票やスカウトで伝える内容がズレていると、優秀層ほどその不一致に気づきます。結果として応募に至らなかったり、選考途中で辞退されたりと、ほしい人材ほど取りこぼしやすくなります。

逆に「なぜ今このポジションが必要なのか」「入社後にどんな事業課題に向き合うのか」を開示と一貫した言葉で語れれば、優秀層の関心と信頼を引き寄せられます。人的資本開示は、その一貫したストーリーの起点になります。

採用にも経営視点が求められる

採用は、もはや人事部門だけで完結する業務ではありません。事業戦略、組織戦略、投資計画と連動しながら、どの人材を優先的に獲得するかを判断する必要があります。

特にCHRO、人事部長、採用責任者に求められるのは、採用数の管理だけではなく、採用投資の優先順位を決めることです。どの事業に、どの職種を、どのタイミングで採用すべきか。育成や配置転換で対応すべき領域と、外部採用で補うべき領域をどう切り分けるか。こうした判断には、経営視点が欠かせません。

人的資本開示を読むことは、採用を経営と接続する第一歩です。開示内容を採用要件に読み替えることで、採用活動は「人を集める業務」から「事業成長に必要な人材を獲得する戦略」へと変わります。

TOPIX100企業は人的資本開示をどう採用につなげているのか

採用支援を行うトラックレコードが実施した独自調査「人的資本開示調査2026」では、TOPIX100構成企業を対象に、人的資本開示がどの程度採用要件に接続されているかを調査し、10項目で評価しました。

【事例あり】人的資本開示を採用要件につなげる3ステップ

人的資本開示を読んでも、すぐに求人票や選考基準を作れるわけではありません。重要なのは、開示資料の中にある経営の意図を読み取り、必要人材に分解し、採用実務で使える言葉に変換することです。

ここでは、本田技研工業株式会社の開示例を参考に、採用要件へ落とし込む3つのステップを紹介します。

※本田技研工業の事例は、同社が公開している有価証券報告書の記載(出典:本田技研工業株式会社「第101期 有価証券報告書」)をもとに、トラックレコードが独自に評価したものです。

ステップ① : 経営の意図を読む

最初に見るべきなのは、人材施策そのものではなく、その企業が、どの事業領域を重視し、何を変えようとしているのかです。

採用担当者は、まず次のような問いを持って開示資料を読むとよいでしょう。

  • 企業が今後どの事業で成長しようとしているのか

  • どの領域で競争力を高めようとしているのか

  • 既存事業の強化なのか

  • 新規事業の創出なのか

  • DXやグローバル展開なのか

この問いを意識して読むことで、開示から「採用で補うべき人材の輪郭」が見えてきます。

本田技研工業の例では、事業戦略から人材マテリアリティ、主要テーマ、人材ポートフォリオ、採用方針までが一連の流れで示されています。

出典:本田技研工業株式会社「第101期 有価証券報告書」P.27より抜粋

ステップ② : 抽象的な人材像を、役割・能力・経験に分解する

次に、開示資料に出てくる人材像を、採用要件として扱えるように分解します。

本田技研工業の例で言えば、「注力領域の人材充足率が低い」という開示は、採用要件に落とし込む際に、次のように読み替えられます。

出典:本田技研工業株式会社「第101期 有価証券報告書」P.27より抜粋

【読み替え例】

開示の言葉

採用要件への読み替え

採用側の理解

注力領域の人材充足率

会社が戦略上重要とみなす領域で、必要人員に対して現有人員がどれだけ足りているか

事業戦略と採用計画が連動している

バッテリーのライフサイクル、バリューチェーンに関する様々な人材

対象領域:電池・バッテリー関連、サプライチェーン、製造、研究開発、品質、リサイクル等

採用ターゲット領域を推定できる

人材補充率
(実績97%、目標100%)

目標に対して3%分のギャップがある

不足はあるが、深刻な不足というより「計画達成に向けた補充・強化」

この「読み替えの作業」こそが、採用要件設計の出発点です。抽象的な人材像を、職種・役割・必須経験・期待成果のレベルまで具体化することで、求人票やスカウト文に落とし込める内容になります。 

ステップ③ : 求人票・候補者訴求・選考基準に落とし込む

最後に、分解した人材要件を採用実務に反映します。ここで重要なのは、充足率が低い重点領域を起点に、採用すべき職種、求める経験・専門性、入社後に担う役割を具体化したうえで、求人票、候補者への訴求、選考基準の3つを一貫させることです。 

  • 求人票:
    職種・業務内容・必須条件が、経営が重視する事業テーマと整合しているか
    「なぜこの役割を今採用するのか」の背景が書かれているか

  • 候補者訴求(スカウトメッセージ・採用ピッチ資料など):
    会社が目指す方向性と、その候補者に期待する役割が具体的に伝わっているか

  • 選考基準:
    面接での見極めポイントが、採用要件(経験・能力・カルチャーフィット)と対応しているか

有価証券報告書や統合報告書を読んで応募してくる候補者も増えています。企業の公式開示と採用メッセージが一致していると、入社後のミスマッチによる離職防止にもつながります。

TOPIX100企業の調査結果や、人的資本開示を採用要件に読み替える視点は、無料ダウンロードできる「人的資本開示調査2026」で詳しく解説しています。

人的資本開示を採用に活かす際の注意点

人的資本開示は採用戦略の有力な材料になりますが、読み方を誤ると、かえって採用要件が曖昧になることがあります。

ここでは、2つの注意点を解説します。

人的資本開示は、そのままでは採用要件にならない

人的資本開示は、主に投資家やステークホルダーに向けて、企業の人材戦略を説明するための資料です。そのため、開示内容をそのまま求人票や選考基準に使っても、採用実務では十分に機能しません。

トラックレコードがTOPIX100企業を対象に実施した今回の調査では、方針や戦略、指標については多くの企業が開示している一方で、それを「どんな人材を、どこに、どの程度確保するか」まで具体的に落とし込めている企業はまだ限られていることがわかりました。 

たとえば「デジタル人材を強化する」と書かれていても、それがデータ分析人材なのか、プロダクト開発人材なのか、事業部門のDX推進人材なのかによって、採用要件は大きく変わります。人的資本開示を採用に使う際は、採用ポジション単位まで分解する必要があります。 

採用責任者と採用担当者では、人的資本開示の読み方が異なる

同じ人的資本開示を読む場合でも、採用責任者と採用担当者では見るべきポイントが異なります。

対象

役割

視点

採用実務への落とし込み方

採用責任者

経営戦略と採用戦略を接続する立場

・ どの事業に対する採用なのか
・ 不足している人材は何か
・ 採用と育成をどう切り分けるのか

採用すべき領域や人材の優先順位を決める

採用担当者

採用方針を具体的な採用活動に落とし込む立場

・ どの職種・役割として募集するのか
・ 候補者にどう伝えるのか
・ 何を必須経験にするのか
・面接で何を見極めるのか

求人票、スカウト文面、候補者訴求、面接設計に反映する

この役割の違いを意識すると、人的資本開示の読み方も変わります。採用責任者は「何を優先して採るべきか」を読み、採用担当者は「どう伝え、どう見極めるか」を読む。この分担ができると、開示情報を採用実務へ落とし込みやすくなります。

人的資本開示と採用戦略についてよくある質問

人的資本開示を採用に接続する必要性は理解していても、実務に移す段階では多くの疑問が出てきます。

ここでは、採用責任者や採用担当者からよく聞かれる質問にわかりやすく回答します。

人的資本開示と採用戦略はどう関係しますか?

人的資本開示は、企業価値を生み出す人材や組織能力を示す考え方です。採用戦略は、その人的資本を形成するために、外部からどのような人材を獲得するかを決める活動です。

つまり、人的資本開示は「どのような人材が必要か」を考える起点であり、採用戦略は「その人材をどう獲得するか」を具体化する手段です。両者がつながっていないと、経営が求める人材と現場が採用している人材にズレが生まれます。

人的資本経営を採用に接続するには何をすべきですか?

まず、自社の人的資本開示や人材戦略を読み、経営が重視している事業領域や組織課題を整理します。そのうえで、必要な役割、能力、経験を採用要件に分解します。

次に、求人票、スカウト文面、採用ピッチ、面接評価項目に反映します。人的資本経営を採用に活かすには、資料を読むだけでなく、候補者に伝わる言葉と選考で見極められる基準に変換することが重要です。

人的資本開示は採用戦略にどう使えますか?

人的資本開示は、採用の背景を説明する材料として使えます。

たとえば、企業がどの成長領域を重視しているか、どのような人材群を強化しようとしているか、育成や配置と採用をどうつなげているかを読み取ることができます。

採用戦略では、これらの情報をもとに、採用優先順位、対象職種、候補者への訴求、選考基準を設計します。ただし、開示資料の言葉をそのまま使うのではなく、採用実務に使える粒度へ読み替えることが必要です。

人的資本開示を採用要件に落とすには何をすべきですか?

人的資本を採用要件に落とすには、3つのステップで考えると整理しやすくなります。

まず、経営の意図を読みます。どの事業を伸ばそうとしているのか、どの変革テーマを重視しているのかを確認します。

次に、必要人材に読み替えます。抽象的な人材像を、職種、役割、能力、経験、期待成果に分解します。

最後に、採用実務に落とし込みます。求人票、候補者訴求、スカウト文面、面接質問、評価基準に反映し、採用活動で使える状態にします。

人的資本開示を採用戦略につなげ、採用実務に活かそう

人的資本開示を採用に活かすとは、有価証券報告書や統合報告書の文言をそのまま使うことではありません。重要なのは、経営が何を重視し、どの領域を強化しようとしているのかを読み取り、採用担当者が使える言葉に変換することです。

今回のTOPIX100企業を対象にした調査でも、方針や戦略、指標の開示は進んでいる一方で、それを採用要件まで具体化できている企業は限られていました。人的資本開示を採用に活かすには、経営の意図を読み取り、必要な人材像に分解し、求人票・候補者訴求・選考基準へ落とし込むプロセスが必要です。

トラックレコードでは、採用戦略の設計から求人票・採用ピッチ資料の制作、スカウト運用まで一気通貫で支援しています。採用戦略の見直しや、人的資本開示を活用した採用要件づくりに課題を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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